LEGASEE [THE EDIT] 金属特集 Vol.1

LEGASEE [THE EDIT] 金属特集 Vol.1

THE EDITは、LEGASEEの視点で作品を選び、編んでいく特集です。

素材、技法、造形、背景、そして来歴の可能性まで。

ひとつのテーマから、いま注目したい現代工芸を紹介していきます。

 

 

作家:江田 朋哉 作品:富士釜『演舞』

¥360,000

霊峰・富士を思わせる端正な姿に、静けさと躍動を宿した釜。

肩の張りと裾の絞りが生むやわらかな曲面は、富士の大地と天空をつなぐような佇まいを形づくっています。

題名の「演舞」は、舞が型を超えて生命を得る瞬間。

鐶付や文様に表れた炎や布のような捻れは、鉄という重厚な素材の中に、軽やかに舞う“動き”を映し出しています。

その緊張と調和こそが、この釜の魅力です。

江田朋哉は、栃木県佐野市に続く天明鋳物の系譜を受け継ぐ作家。

天明鋳物は、平安期にその起源を持つとされ、「西の芦屋、東の天明」と称されながら、茶の湯の世界で独自の存在感を築いてきました。

その歴史を礎に、和銑ならではの深い釜肌と、富士に重ねられた日本的な精神性を現代の造形として表現した一作です。

 

 

 

作家:粟根 誠一郎 作品:七宝花紋壺「清雅」

¥500,000

昭和レトロの気配を宿した抽象的な薔薇文を、現代北欧の空気感で再構成した七宝の壺。

水色と紺青を基調に、「存在しない」という意味をもつ青薔薇をモチーフとして描き出しています。主題にあるのは、トマス・モアの『ユートピア』が想起させる、どこにもない理想郷です。

胴に広がる花文には銀の小片が散りばめられ、やわらかな光を湛える華やかさを演出。口縁には、薔薇に呼応する棘ある蔦が彫金で施され、繊細さの中に緊張感を添えています。

明治期に華開いた七宝の歴史を踏まえながら、粟根誠一郎はそこに新たな造形の可能性を重ね、現代にひらかれた七宝表現を追求しています。

伝統技法の上に、静かな幻想と現代性が宿る一作です。

 

 

 

作家:鈴木 盛久 作品:砂鉄鶴亀紋羽広形鉄瓶

¥1,651,100

南部鉄器の名門・鈴木盛久家の十六代による、砂鉄製の羽広形鉄瓶。

かつて囲炉裏の上で用いられた羽広鉄瓶は、裾に広がる“羽”によって持ち手が熱くなりにくく、実用性と美しさを兼ね備えた南部鉄瓶の名作として知られてきました。

本作は、その古典的な羽広形を、現代でも使いやすい1.7リットルのサイズで再解釈したもの。

磨き上げられた砂鉄の端正な輝きの上に、「鶴は千年、亀は万年」の吉祥紋が華やかにあしらわれています。

砂鉄(和銑)は、堅牢性と耐久性に優れ、長い年月を経るほどに味わいを深める素材。

黒や茶が多い鉄器の中で、磨き仕上げによる独特の光を放つその姿は、特別な存在感を宿します。

職人が数日をかけて仕上げる鉉の鏡面磨きにも、鈴木盛久工房ならではの緊張感と品格が息づく一作です。

 

 

 

作家:野村 哲之 作品:木目金花瓶

¥1,850,000

木の年輪を思わせる文様が広がる、木目金の花瓶。

銅・銀・赤銅という異なる金属を幾重にも重ね、削り出すことで生まれる木目模様は、ひとつとして同じもののない表情を宿します。

叩き、伸ばし、削るという工程を重ねるなかで、素材はそれぞれに個性を帯び、偶然と手仕事が織り重なった景色を描き出します。

金属でありながらどこか柔らかく、空間に静かな温もりと深みを添える一作です。

木目金は、江戸時代初期に刀装具の技法として生まれた日本独自の金属工芸。

自然の風合いを金属の中に映し出す、その繊細な美意識が現代の造形へとひらかれています。

 

 

 

作家:蔦本 大樹 作品:古龍小炉 / Dino Little Censer

¥88,000

青銅鋳物でかたちづくられた、小さな香炉。

恐竜というサブカルチャー的なモチーフを、数千年の耐久性をもつ古い素材で表現することで、空想と歴史、遊び心と重厚さが交差する作品です。

青銅は、祭器や権威の象徴として長く人類の歴史を刻んできた素材。

その確かな質量と経年への強さは、視覚的な造形だけでは生まれない“本物のロマン”を宿します。

蔦本大樹は、現代の造形文化を一時的なイメージで終わらせず、未来に発見される遺物のような存在へとひらこうとしています。

古代文明の出土品を思わせるような気配をまとった、青銅ならではの想像力あふれる一作です。

 

 

 

作家:佐川 和暉 作品:木目金高坏「秋水」

¥450,000

木目金という素材そのものに導かれるように生まれた、高坏。

複数の金属を重ね、削り出すことで現れる文様を、装飾ではなく造形の出発点として捉えた作品です。

「秋水」と題された本作では、高坏の上面に水面と紅葉の情景が繊細に表されています。

秋の気配を映し込んだようなその文様は、素材と向き合う手の積み重ねから立ち上がった、唯一無二の景色です。

木目金は、江戸時代に刀装具の技法として生まれた日本独自の金属工芸。

佐川和暉はそれを自らの手で生み出す「素材」として捉え、その本質にふさわしい造形を追求しています。

木目金の新たな可能性を静かにひらく一作です。